『ものづくり事典(仮称)』について、会員の皆様からの提案を募集します
産業遺産学会は丸善出版株式会社様からご提案いただき、日本科学史学会(技術史分科会)、日本技術史教育学会等と共同で、『ものづくり事典(仮称)』の編纂に取り組むことになりました。この事典は、近現代を中心に近世も含めて、狭義の産業技術以外の産業(例えば、農業や水産業、林業、伝統産業など)も対象としつつ、ものづくりに焦点を当てて、いろいろな産業の歴史と現状を解説することで、日本のさまざまな産業の世界、その歴史と現状が見えてくるようなものにしたいと考えています。過日開催された編集準備会では、丸善出版様が提案された章立て(以下に示す)をもとに、各学会で何が書けるかを、8月中旬に開催する次回の会議に持ち寄り、再度議論することになりました。
編集委員会では、産業系博物館や企業関係者も含めて執筆者を探すことも話し合われました。章立てや執筆者の依頼等はこれから議論で決定します。そこで会員の皆様から、章立て案等に対するご意見や提案、会員の皆様がどういった項目ならご執筆いただけるか、などを調査したいと思います。
6月22日
会長 横山悦生
記
名称
ものづくり事典(仮)
商品計画
A5上製、672頁、800部発行、販売価格25,000円
発行
2026年7月
背景
技術は「人類が生存するために必要な技や知識の総体(国立科学博物館)」と定義され、人類の歴史に適応しながら発達してきた。とくに近代産業技術は具体的な物との関連性が高い分野である半面、その保存や歴史研究が軽視された分野でもあった。産業遺産への注目が高まったのもここ数十年のことであり、近代産業技術の資料はいまも散逸の危惧に瀕している。2009年に国立産業技術史博物館計画が中止され、2万点近くの資料が廃棄されたのはその典型例である。この国立産業技術史博物館計画の中止と技術史資料の散逸に危機意識を強めた国立科学博物館は、産業技術史資料総合センターを設立した。また国立科学博物館は「未来技術遺産」を募集し、日本の産業遺産が世界遺産に登録されるなど、技術や産業、その研究や遺産の保存と活用への関心は高まりつつあるのもまた事実である。
ねらい
こうした社会情勢に照らすと、技術やその歴史資料は常に散逸や消滅の危機と隣合わせにある半面、先人が培ってきたものづくりの歴史や技術は、工学関係のみならず産業技術に関心のある人々、産業の歴史やものづくりに興味をもつ人々へのより強いメッセージになるはずである。この意味でも、ものづくりの技術、歴史の伝承は急務である。また、ものづくりには技術者とともに技能者が大きな役割を果たしてきたことも歴史的事実である。技術だけでなく、技能にも注目することが本事典の新しい特徴である。ものづくりの現場に関わってきた技能者がどのように養成されてきたのか、技術者の教育だけではなく、技能者の教育・訓練(技能形成)にも言及することが求められている(注)。本事典は、日本のものづくりの技術や技能形成の歴史を集大成し、公立や大学の図書館などで手にしやすく、専門用語を極力少なくするなど、一般の人々にも理解いただけ、授業や講義にも応用しやすい、読みやすい内容にすることを目標にする。
丸善出版株式会社様編成案
第1章:ものづくりと技術史
近代技術の移入と諸国/技術史資料の特徴/技術史資料の保全への課題/「ものづくり」という概念/各国産業技術史との連携/技術の体系化…
第2章:通信
フェライトとカセットテープ/蓄音機/電話/インターネット/テレビ/カメラ…
第3章:電気・電力
電池とセラミックス/半導体
第4章:産業用機械
ボール盤/ミシン/ロボット/油圧ショベル…
第5章:汎用機械と交通
鉄道/自動車/ディーゼル機関/貨車/ガス機関…
第6章:金属
鉄器/金属楽器(浜松など)/精錬/アーク溶接/高炉/…
第7章:化学と印刷
和紙/高速輪転機と新聞/活字/ガリ版印刷/塩化ビニル/染料/洗剤…
第8章:繊維と木製品
糸紡ぎ/蚕/自動織機/ジェット織機/伝統技術の保全と近代産業(宮古上布など)/木製楽器(オルガンなど)/ポリエステル繊維/…
第9章:鉱業・建設・窯業
セラミックス/衛生陶器(トイレ)/3Dプリンタ
第10章:食品・農林水産業
発酵食品/酒/フレーバーと匂いセンサー/牛乳と衛星技術/蒸留(ハッカなど)/肥料/抗生物質/抗がん剤…
第11章:サービス業とそのほか
上下水道/手動洗濯機/カラオケ
第12章:技術の教育
徒弟制度と教育/技術の教本化/図版と技術:百科全書の衝撃/工科学校の設立/博物館/アーカイブとしての技術史…
見開き2頁、最大4頁
図版なしの場合;2頁で約2,400文字
図版1点の場合;2頁で約2,100文字
図版2点の場合;2頁で約1,900文字
産業遺産学会は2027年、産業考古学会としての設立から50年を迎えます。我々は、『ものづくり事典』の編纂をとおして、会員皆様のご専門やお力を知り、学会の活動をより活発にし、さらにあたらしい仲間50名を会員に迎えたいと考えています。
そこで、会員の皆様が普段携わっておられたり、関心をお寄せになったり、研究を続けていらっしゃる産業やものづくりに関する情報やお考え、ご提案、編纂へのご希望、ご助言、執筆の自薦・他薦などを広く募集します。7月31日(月)までに、エクセルファイルに記入の上つぎのアドレスに寄せてください。いただいたご意見やご提案等は編集委員会で議論いたします。
注:注)日本における技能形成の特殊性については。以下の文献を参照してください。K.セーレン著 石原俊時・横山悦生監訳『制度はいかに進化するかー技能形成の比較政治経済学ー』大空社出版、2022年 3850円。この本はかなり大部なので、添付ファイルの徳丸宜穂氏によるこの本の書評(『社会経済史学89-1. 2023年5月)にその内容の要約が含まれています。
社会経済史学に掲載された、徳丸宜穂氏書評は、下記のJ-STAGEからダウンロードしてお読みいただけます。
社会経済史学2022 年 89 巻 1 号へのリンク(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/sehs/89/1/_contents/-char/ja
ものづくり事典専用アドレス
jitenAsangyo-isan.net(送信の際はAを半角の@に変えて下さい)