産業考古学会(JIAS)への誘い


産業考古学会元会長(2010-2017) 伊東 孝

最初に数あるホームページの中から、わたしどもJIASのホームページを開いてくれたことに、感謝いたします。ここでは「産業考古学会」に対するわたしの想いを紹介しながら、あなたへの学会への誘いをしたいと思います。


1.「産業考古」「産業考古学」という用語に「?」

 「産業遺産」という言葉については、群馬県の富岡製糸場や、九州山口を中心とする近代日本の産業革命遺産が世界遺産に登録されて、一般的には以前より通りがよくなったと思います。しかし「産業考古」「産業考古学」という言葉には、みなさん、まだなじみがないのではないでしょうか? かくいうわたしも多少抵抗がない訳ではありません。こんなことをいうと、理事をはじめとする会員のみなさんからひんしゅくを買いそうですが、本音のところではそうです。

2.疑問をもつことが、「学」に寄与

 なぜこのような物議をかもすようなことをいうのか? 実はわたし自身が、なぜ「産業考古学」という言葉に多少抵抗ないしは腑に落ちないところがあるのか、また「産業考古学」より「産業遺産学」という言葉の方が、いまでは通りがよいのでは?、そしてそれはなぜなのか? こういうことを考えること自体、「産業考古学」の発展に寄与すると考えるからです。

3.「産業遺産」概念は発展途上、これからもあたらしい産業遺産が生まれる

 都市計画(史)や土木史に関心をもってきたわたしにとって、「産業考古学」とは、簡単にいえば産業遺産の「発見」「保存」「利活用」に関する調査・研究と思っています。核心は、「産業遺産とは何ぞや?」という点にあります。「産業考古学概要」(前述)には、「産業遺跡、技術記念物など」とありますが、国際的には最近、有形なものはもちろんとして、無形なものや、「地域社会の生活を形づくり、また…社会全体や世界に大きな組織上の変化をもたらした…社会遺産や文化遺産を含む」としています。
 ここでいいたいことは、わたしどものキー概念である「産業遺産」という言葉は、戦後生まれのあたらしい概念であり、国際的にもまた発展途上の概念であるということです。用語の概念、対象、扱い方からはじまり、モノ自体についてもまだまだあたらしい産業遺産や枠組みが提示できることがわかります。

4.現場・現地そして住民・市民の発想を重視

 このように書いてくると、みなさんは重箱の隅をつつくようなガチガチの凝り固まった学者・研究者の集まりと思うかも知れませんが、新安保闘争、住民運動、市民運動の時代を経験してきたわたしにとって、産業考古学会の設立趣旨に書かれた、次の言葉がいまでも忘れられないのです。
 「産業記念物や遺跡の保存研究と運動を推進する」数多くの学会があると思いますが、設立趣旨に保存運動を推進することを謳っている学会は、まずありません。わたしはこの一言にほれこんで、学会員になったようなものです。
 本学会は、現場で起きている保存問題や保存運動にもちゃんと目をむけているのです(ないしはむけようとしています)。また素人や市民の発想にも目を向けていることがわかります。保存問題や保存運動が起きるのは、それらに対する保存措置などが制度化されていないから起きるのであって、研究的にはあたらしい課題なのです。社会的に定着させるには、時間がかかりますが。

5.まずは見学会や研究発表会をのぞきません?

 本学会は、以上のようなことを通常は研究発表会や見学会で、あるときは現場で、ワイワイガヤガヤ、カンカンガクガク、議論・討議・対話する場です。あなたもまずは会員になるまえに、見学会や研究発表会に参加してみませんか?
 明るいオタクが多い集まりでもあります。